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高速演算記 第13回 分子科学研究所 丸山 豊博士

今回の高速演算記第13回は私共G-DEPのユーザーであり、先日行われたNVIDIA GTC Workshop Japan 2011テクニカルセッションのプログラムでもご登壇された分子科学研究所 丸山豊博士に、「分子性液体の積分方程式理論(3D-RISM理論)の解法とGPUによる高速化」と題して寄稿頂きました。 

分子性液体の積分方程式理論(3D-RISM理論)の解法とGPUによる高速化

1 序

   水は地球上で最も豊富な物質であり生命維持に欠かせない。人間の体の70%程度は水であり、DNAやタンパク質などの生体分子は水の中に浮かんでいる状態である。つまり生体分子の構造や機能を考える時に周りの水を考慮することは不可欠である。
 
 生体分子の周りの水を考えるには水の分子としての性質をきちんと考慮する必要がある。つまりナヴィエ・ストークス方程式のように連続体として扱うのではなく、水の分子としての形をきちんと取り入れなければならない。図1は液相中の水分子の様子を示している。赤い球は酸素、白い球は水素原子を表している。中心の水分子の酸素には他の水分子の水素が、水素には他の水分子の酸素が結合している。青の点線はこれらの結合を示しており、水素結合と呼ばれている。この水素結合を正しく取り扱うことができる理論が必要となる。 

 3D-RISM理論は、水分子などの分子性液体を取り扱う統計力学理論である[1]。 この理論を用いることで生体分子の周りの水がどのように分布しているのかを調べることができる。一例として、水分子の周りの水の存在確率を示す分布を図2に示す。これは図1に対応するものである。赤の分布は水の酸素を、水色は水素を示している。これらの分布は水の平均密度よりも3倍以上高い確率で存在する場所を示している。つまり水分子の周りには選択的に水の酸素もしくは水素が結合するという水分子の性質を正しく表現している。 

 3D-RISM理論では水の周りの水だけではなく、タンパク質などの生体分子の周りの水を取り扱う事もできる。図3はタンパク質の周りの水の様子を示す。図2と同じように3倍以上高い確率で存在する分布を表示している。タンパク質の周りに水の酸素が結合する場所と水素が結合する場所が入りくんでいる様子がわかる。またタンパク質の表面全域に分布が広がっている。これは、水を好む親水性部分が タンパク質の表層に配置されているためである。親水性の部分が水との結合面にある代わりに、水を嫌う疎水性部分はタンパク質の内側に配置されている。このように生体分子の構造決定や構造安定には水の分子構造と性質が重要な役割を果たしているのである。 

 3D-RISM理論で取り扱う事のできるのは水だけではない。NaCl水溶液などのイオン水溶液も取り扱うことができる。この3D-RISM理論を用いて陽イオン濃度の変化によるDNAのB-Z転移[2]や、陽イオンの種類による染色体末端部分のテロメアの構造変化および構造決定[3]など様々な応用を行ってきた。さらに近年では3D-RISM理論の創薬への適用方法が開発されている[4]。この方法では薬効分子を含んだ水溶液を考え、薬効分子と標的タンパク質の結合位置や結合強度を調べることができる。創薬への適用で薬効分子と標的タンパク質の多数の組み合わせの計算をする必要があるため、3D-RISMプログラムの高速化が強く望まれている。 

本稿ではこの3D-RISM理論の概略とその解法、GPUへの実装について説明する。 
 

 
図1 水中の水分子の様子。赤い玉は酸素、白は水素を表す。青の点線は水素結合を示す。   図2 水分子とその周りの水の分布。赤の分布は水の酸素、水色は水素を表す

 

図3 タンパク質とその周りの水の分布。 赤の分布は水の酸素、水色は水素を示す。

  

2 3D-RISM理論

水などの溶液を構成する分子を溶媒、溶液中に低濃度で存在する分子を溶質とする。3D-RISM方程式は、導出から求められる溶質溶媒間の全相関関数huvと直接相関関数cuvの2つの未知関数を用いて
 



と表される。ここでωは分子内相関関数を表し、ρは溶媒の数密度、γは溶媒の成分、*は畳み込み積分を示す。またhvvは溶媒の全相関関数で1D-RISMから求められる。この式は・・・

 

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